読書:『対等な夫婦は幸せか』
思ったよりもガチめの論文だった。(出版社で気付くべきだったかもしれない)
統計の二次分析によって、夫婦の対等性に関するさまざまな事象を分析していく論文。知識が足りなくて統計を読めないので、調査手法のあたりは読み飛ばしてしまった。
前7章+序章・終章と、長いので、興味深いと思った章だけメモ。
3章 夫婦間で仕事と家事の交換は可能か(水落正明)
目次
- 共働き世帯の家計構造と家事分担
- 家計構造と家事分担をどう測るか
- 家計貢献と家事分担の代替関係はどの程度か
- 共働社会の到来は何をもたらすのか
夫の収入の絶対額と家事分担割合に相関性はない。
末子が未就学児の場合、妻の負担が増えがち。
妻の家事分担が1%増えた場合、家計負担は1.4%~1.6%程度の減少をもたらす。
(個別推定では、0.3~0.4%の減少しかもたらさない可能性も示唆されている)
つまり、今後共働きが進んで妻の家事分担が減少する場合、それ以上に家計への貢献が必要になるが、平均的な市場賃金が男性に比べて低いため、家計貢献への負担が重くなる可能性がある。
4章 共働きで夫はストレスがたまるのか( 裵 智恵 )
目次
- 夫の経験としての共働きというライフスタイル
- 妻の働き方で夫のストレスは異なるのか
- 性別役割分業意識と家庭の実情のギャップ
- 意識と実態のギャップが生み出す夫のストレス
共働きを夫の意識から分析することはあまり多くなかったらしい。
既存研究では、「共働きで夫がストレスを感じる」という研究が多めだが、逆の立場の結論もある。
▽先行研究の結論たち
共働きがストレスの理由:家事負担が増える、一家の稼ぎ手としてのアイデンティティを脅かされる。
共働きがストレスにならない理由:世帯収入の増加により、経済的に安定する。
▽裵の研究
性別役割分業の賛成派と反対派に分けて分析。
賛成派(保守派)も反対派(革新派)も、意識と実態が一致していればストレスは少ない。
意識と実態が不一致の場合のストレスの出方は差がある。
賛成派不一致は、参加する家事の数が多いとよりストレスがたまる。
反対派不一致は、参加する家事の数が少ないとよりストレスがたまる。
ストレスの度合いについては、個人の心身の不快な状態「ディストレス」を指標にする。
意識が保守・革新のいずれであっても、夫の収入割合が低い方がストレスになる→夫の収入が少ない=職場由来のストレスが多いのかも?
(以下、感想)
革新派の場合のストレスが増えるの、「参加する家事の数が少ないと」というよりは、「家事に参加できないくらいに仕事が忙しいと」では…?
家事をお任せして趣味の原稿に全力投球してる時期なんか、別に全然ストレスじゃない気がする…まぁでも、〆切前の1~2週間とか限定だからストレスじゃないのかも。延々続くと申し訳なさが勝ってくるのか。
5章 夫のサポートが夫婦の結婚満足感を高める( 竹内真純 )
目次
- 対等な夫婦程結婚に満足しているのか
- 様々な「対等性」
- 夫婦の結婚満足を高める要因
- 何が対等な夫婦関係を生み出すか
- 結婚満足度の低い夫婦の特徴
まずは「対等性」を測定するため、7つの指標を用いる。
- 「(道具的サポートの)分担割合」:家計費負担と、家事・育児・介護も含めた家庭内サポートの何割くらいを負担してきたか。
- 「資産貢献割合」:資産形成に、家事・育児・介護も含めてどのくらい貢献してきたか。
- 「悩みの受け入れ」:相手の悩みを聞いてあげているのと、相手に聞いてもらう割合のどちらが高いか。
- 「評価」:相手を評価するのと同じくらい評価されているか
- 「金銭の自由度」
- 「(一人での)外出の自由度」
- 「自宅内の自由度」:家の中で自由に趣味などができるか
それぞれの項目のバランス傾向ごとに5つのクラスタに分け、その結婚満足度と比較する。
それぞれのクラスタごとの特徴を単純化した描写(カッコ内は私の感想)
①自由度高群(家庭を顧みないタイプのバリキャリ女性)
②サポート過剰利得群(若い世代の専業主婦=夫は高収入かつ亭主関白じゃない)
③評価低群:夫に評価されないと感じている専業主婦
④負担感大群:仕事と家庭の二重負担に苦しむ妻
⑤情緒サポ受・自由度低群(情緒サポートを過剰に受けているので、他の部分で遠慮がち)
結婚満足度が高いのは、夫婦ともに②(有意に高い)。次いで⑤。
結婚満足度が低いのは、夫婦ともに③(有意に低い)。
①では妻の満足度は中程度、夫は低い。
④では妻の満足度はかなり低く、夫は中程度。
結論としては、共働きが結婚満足度アップにつながるためには、妻の就業が妻の負担感により強く結びつくのか、互いの評価の対等性に結びつくのか、が分かれ目。
夫婦の会話量や夫の家事参加の量によって決まる。会話の多い夫婦は満足度が高い。妻の経済力が高まるだけでは結婚満足度アップにならない。
(以下、感想)
我が家は⑤なのかなーと思う。
フルタイム共働きで家事分担は折半とはいえ、夫のほうが収入多いので、互いのお小遣いの額で差をつけている。不自由を感じてはいないけれど、自由に使える金額は違うので、自由度でいうなら低いのだと思う。そんな感じで、ちょっと遠慮がちになっちゃうんだよねぇ。。。
子どもはいないけど、いたら合理的に考えて多分私が育休取っていたので、外出の自由度や自宅内での自由度も減ったのだろうと思う。それは嫌だなぁとちょっと思っていたけれど、このクラスタが全体的に結婚満足度が高いのであれば、おおむね問題なくやれたかなとも思う。(しかし子どもって望んでもできないから大変だよねぇ)
7章 夫婦の働き方戦略( 松田茂樹 )
目次
- 働き方戦略からみた性別役割分業
- 性別役割分業意識と夫婦の働き方の関係
- 夫婦の働き方戦略を決める要因
- 戦略の自由度と働き方戦略
『逃げ恥〜経済学』での、妻の就業形態と、役割分業意識の一致…の図、原典。
夫婦の意識と実態の一致が家族の幸福を生む。
お互いが得意な分野のスペシャリストになったり、子供の教育を重視する戦略をとるなら、性別役割分業のほうが幸福。共働きをしても幸せになれない。
夫婦双方のキャリア形成や、収入のリスクヘッジを重視する戦略なら、役割分業では課題解決にならない。共働きの方が幸せ。
意識と役割が一致している夫婦は約1/2。
革新型不一致、保守型不一致はともに約1/4。
末子の年齢が小さいと、革新型不一致になりやすい。共働きをしたくともできない状態。
子供が高校生・大学生になってくると、保守型不一致が増える。役割分業をしたいのに、学費のために働かなくてはいけない。
男性の方が、保守型不一致が優位に多い。女性のほうが革新型不一致が多いということはない。
親が同居していると、革新型不一致は減る(子の面倒を見てもらえる)。また、保守派不一致も減る(資金援助など得られやすい?)
現状では、革新型の意識よりも役割分業型の意識を持っている方が、出産~未就学児を育てている期間の葛藤は少ない(=幸せ)といえる。保育サービスの充実が社会の課題。
終章 対等な夫婦は幸せか( 永井暁子 )
目次
- 「共働き」はどのように捉えられていたのか
- 妻の就業は夫婦を対等にするか
- 妻の就業、夫婦の対等性がもたらすもの
- 対等な夫婦関係はゴールではない
対等を目指すプロセスが大事。すべてを同等に分かち合うことは結婚の進化ではなく、むしろ絆の強い協調的で親密な結婚生活を築くための手段であった。
ピア・マリッジ(平等主義に基づく結婚)には、男女とも「関係中心の人」である場合が多い。家族との関係性を重視し、仕事を抑制するという対価が必要。