ジンジャエールを飲みながら

大都会の片隅で働くしがないウェブ屋が、ウェブと全然関係のない読書とかアニメとかの感想を書き連ねるメモブログです。

イベント感想:おそアサ会(おそらくこの世でもっとも影響力があるアーサー王二次創作作品についての大座談会)

私はアンテナが低いので、前回のイベントが終わったあたりでようやくこのシリーズの存在に気付き、今回から初参加。

ボッチ参加なので片隅でおとなしくしていよう…と思いながら行ったのですが、そんな気持ちを吹き飛ばすくらいとても楽しいイベントでした。

 

冒頭、登壇者の女性陣が、推しのうちわを持っていた時点で「あれ?思ってたのと違う?」となったのですが、小宮先生が中世風のかぶりものでご登場されたあたりで今回のノリを理解しました。あのかぶりもの、初心者にも場の空気を一発で理解させてくれるすごいアイテムでした…!!

考えてみればあの『いかアサ』を創った人たちなのですから、はちゃめちゃ楽しいに決まってますね…!

 

あと、会場装飾とごはんもすごかったです。これは長くなるので記事の最後に書きます。

 

対談内容

日時:4月26日(金)18:00~20:00

出演: 

 小宮真樹子(『いかアサ』編者・近畿大学准教授)

 嶋崎陽一(フランス文学者・国際アーサー王学会日本支部会会長)

 椿侘助(『いかアサ』執筆者)

 山田南平(漫画家)

 〈司会〉岡本広毅(『いかアサ』編者・立命館大学准教授)

場所:池袋(Ellare)

 

 

以下、イベントの内容・自分用メモです。グレー文字は私の感想。
聞き書きしたものをまとめなおしているので、間違いや不正確なところもあると思いますがご容赦ください。(お気づきの点などご指摘いただけると喜びます)

 

流布本とは

おそらくこの世でもっとも影響力があるアーサー王二次創作作品=流布本サイクル。フランス流布本。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%AD%EF%BC%9D%E8%81%96%E6%9D%AF%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB

アーサー王作品の最初は『ブリタニア列王記』。そこからふたつの系統にわかれていて、ひとつは史実に近いもの。もうひとつが、物語としてのアーサー王作品たち。(マロリーも後者の系譜)

 

流布本は大きく5つの巻に分かれている。

・聖杯由来の物語
・メルラン物語(マーリン)
・ランスロ本伝
・聖杯探求
・アルテュ(アーサー)の死

写本なので、流行やノリで話が付け足されたり改変されたり、写本職人がめんどくさくなったら削られたり、するのでいろんなバージョンがある。騎士同士のエピソードも豊富で、ランスロとモードレッドが仲良しだったり、アグラヴェインがイケメンだったり。

聖杯由来の物語は、聖書の話などなど。

ランスロ本伝が最初に創られ、それが聖杯探索と結びつけられた。ランスロは最初、「聖杯の騎士」として造形されたが、不倫をしているのでNGとなり、ガラハッドがあとから創られた。ランスロはギネヴィアに対して一途でなければならないが、聖杯を見つける血筋は決まっているので、整合させるために「魔法をかけられて子供を作った」ことになった。

完全な邦訳は出ておらず、一部のみ読むことができる。

 

嶋崎先生の解説

トリスタンがアーサー王伝説に加わったきっかけ。
以前に「韻文トリスタン」と呼ばれる作品たちがあった。バージョン違いはあれど、ひとつの物語だった。これをアーサー王伝説に取り込んだのが「散文トリスタン」。

散文トリスタンは家系の話とかを延々してる。読みながら「早く終わればいいのに」と思う。

(フランスの物語って昔からそうだったんだ…。ユゴー先生が設定の話を延々書き綴っているのは12世紀からの伝統だったんだ…)

 

写本(羊皮紙)は、キズをつけたところにインクを盛っていく。たくさん読まれるとインクが消えていく。開いたら真っ白だったこともある。キズは残っているので、光に透かすと読める。そうやって読んでいくと1日で2ページしか読めなかった。

 

西洋美術は「大きな話を書こう」から始まる。イングランド建国とキリスト教を混ぜて、壮大なランスロの物語を作った。

親世代にさかのぼって物語を膨らませていくのは、〇〇とかFate/Zeroっぽいですよね!(by小宮先生)
Fate/zeroにテンションあがって〇〇の部分がすっぽ抜けました…)

 

挿絵紹介ゲーム

流布本の挿絵をスライドに映して、参加者がどのシーンか当てるコーナー。
答えた人には山田南平先生のポスターをプレゼント。

・シャベルで撲殺
カインとアベルの絵。聖書物語。

・幼ランスロ一家と幼ボール一家。妙にそっぽ向いてる。

・円卓が長机。円卓に並ぶ食事がわりと謎。(乱雑)
円卓は意外と四角いです(by小宮先生)

・箱?に鼻をつけてクンクンしている絵…?
→泉で水を飲んでいるシーン
泉(ファンテン)は人工の水飲み場。この絵はちょっと低い位置だけれど。水が緑で描かれている(水が青で描かれるようになるのは15世紀以降)(by嶋崎先生)

・〇の中に波線が引いてある
→どこにでもあるので岩かな?と思っていたら、泉の描写だった。(by椿さん)

・ランスロは乳がでかい(ランスロの裸の絵が複数)
→「ランスロの唯一の欠点は乳がでかいこと」「彼の偉大な心臓には大きな容れ物が必要。私が神だったとしても同じように創るでしょう」などの描写も。

・林檎毒殺事件イナバウアー

・馬の顔がすごい
→意外と横から見たときのデッサンは取れている。正面は苦手なのだと思う。(by山田先生)

 

盾の紋章で、どの騎士のことかわかるらしい。椿さんが「ヒントは盾」と何度かおっしゃっていたのが印象的。

 

好きな流布本のエピソード

嶋崎先生以外のお三方は、山田先生直筆の漫画付きスライドで紹介。

椿さん

①ランスロの女難エピソード。
モルガンの息のかかった乙女に言い寄られ、拒否していたらベッドに潜り込まれ、肌着を引き裂かれた。剣で脅して、でも乙女はランスロが本気ではないと知っていて諦めないから、天幕の外まで逃げた。

②ガウェインはノリで口説くし手が早い。
出会って口説いて拒否られるまで1ページ。その後別のお姫様を紹介されて、寝ている姫を起こさずにキスしはじめる。そのまま同衾する。気付いた家臣が成敗しにくるのを一瞬で返り討ち。全裸でな。

ランスロは王妃一筋、ガウェインは気が多い。その対比がおもしろい。

嶋崎先生

ランスロとギネヴィアのシーン。「愛することによって徳を高める」
「恋愛は12世紀の発明」という説がいかに間違いか。これは間違いなくロマンスである。

よい愛・悪い愛のあった時代、流布本で二人の愛は「よい愛」として描かれている。

 

近年の日本社会では不倫の受け取られ方が変わっているように思う(by小宮先生)

(たしかにFGOランスロットも、マシュから冷たくされるのは「不倫男許すまじ」みたいなノリが根底にあるよな…と思ったり)

 

山田南平先生

ギネヴィア王妃が可愛い。
20歳くらいまで、ギネヴィアとランスロの不倫が苦手だった。でも流布本を読んでから推せるようになった。

ランスロがほかの乙女にラブだという誤報を真に受けた王妃がボールに宥められるシーンとか。

ランスロの血がベッドについてしまったときに「私の鼻血です」と言い張るギネヴィア王妃…あなた女性ならもっとほかの言い訳もあるでしょう!とか。

 

小宮先生

①リオネルとボオールのエピソード
美しい花冠をかぶった姿で、王の息子を殺害した。齢わずか10歳のときのエピソードである。(花冠は湖の貴婦人からの贈り物)

 

②マーリンがヤンキー
アーサーとギネヴィアの結婚式に、マーリンが来れないかもしれない。ローマに行く用事があるという。皇帝に嫁さんの浮気をチクリに行き、「ノーザンバラードのマーリン見参」と書き残して帰る。
なおこの「皇帝」はユリウス・カエサル。時代の違いとかは気にしない。

流布本は余談エピソードがたくさんあっておもしろい。
現在でもネットでこのキャラでこの話やる必要ある?みたいな話題が出るけれど、気にしなくてOK。推しで現パロでもユリウス・カエサルに会いに行く話でも、なんでもやっていいんですよ!(by小宮先生)

 

③ランスロとガルオー(ガルホールド)のBL。唇と目に口付けて慰めるシーン
日本語訳がない。山田先生が小宮先生にちょっと聞いたら、すごい量の訳が送られてきた。
(この台詞は岡本先生が読み上げてくださったのですが、めちゃめちゃイケボでした…)

 

「ガルオーは女性がランスロを愛するようにランスロを愛した」とありますからね…(by嶋崎先生)

 

流布本の後世への影響

①ダンテの『神曲』。
パウロフランチェスカという不倫カップルが「ランチェロの物語を読んだ」という。

 

②トマス・マロリー
「フランスの本にはそうある」と39回くらい書いてある。この「フランスの本」が流布本のこと。

ウソかホントかわからないけれど説得力がありますね(by椿さん)

昔の本は権威付けが大切だった。オリジナルのものを書くよりも、権威ある誰それが言っているほうが信頼された。(by島崎先生)

 

流布本の魅力 

 嶋崎先生:どんなふうに世界をとらえ、描くのか。円卓の騎士の話だけではなく、聖書やブリテン建国の話をしている。

椿さん:キャラのエピソードが多い。マロリーより詳しく、たっぷり読める。

山田先生:王妃がかわいい。推せるようになる。

 

小宮先生は、いままでたくさん語ったので…と(時間が押していたのもあって)コメントを省略。

 

会場装飾&ごはんがすごい

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会場装飾。聖杯と流布本のレプリカ。

 

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参加者テーブルには、円卓コースターと聖杯セットアップガイド。

コースターはコラボカフェでよくもらえるやつで、聖杯セットアップガイドは無配ペーパーみたいなやつと認識すればいいのでしょうか笑

裏面には登壇者のアカウント情報なども。(「おくづけ」や…!)

 

そして「軽食」が豪華!

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小宮先生お手製のプチケーキ&ミートパイ&円卓ケーキ。生ハムの原木。生春巻き。 オリーブとお菓子。お酒。(写真がへたくそですが実物は100倍くらいすごかった)

ほんとすごかったです。「軽食」ってレベルじゃない。。

 

プチケーキには、小宮先生手ずから、騎士のピックを挿していただきました。(ありがとうございます)

 

トークは深いし、テンション高いし、ごはんはおいしいし、はちゃめちゃ楽しかったです。

 

 

おまけ。小宮先生のお母様がいらっしゃっていました。

席が近くて、最初に少しお話させていただきました。
(「まきこの母です」と自己紹介いただいて、一瞬、「???」ってなってしまいました…すみません…)

私が一人参加なこともお話していたのですが、交流タイムで隣の席の人たちとおしゃべりして、お互いの推しアーサー王伝説の話などで盛り上がっているのを見て、「今の方たちはこんな場所でお友達を作るのね」としみじみしていらしたのが印象的でした。

(今の人というか、オタク特有の友達の作り方だと思います…!)

 

 

▽公式の告知

 

▽イベント公式ページ
https://www.mizukishorin.com/blog/%E3%80%8E%E3%81%84%E3%81%8B%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%80%8F%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E3%80%81%E3%81%8A%E3%81%9D%E3%82%A2%E3%82%B5%E4%BC%9A

 

  

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